魔導物語~はちゃめちゃ期末試験~(DS12号収録 1996年9月6日発売)
魔導物語1-2-3を「正伝」としつつ*1、本作は魔導3の続編にあたる外伝の位置づけらしい。DSがPC98からWindows95用のゲームマガジンに切り替わった記念すべき号の目玉タイトル。
シナリオ担当は後に『真・魔導物語』などを出した堕王(織田)健司氏ということで本作にもその前身?らしき設定が見え隠れするのだが、この作品時点では真魔導設定と違った解釈も可能なので、真魔導が苦手な人でもそれまでと少しテイストの違う魔導物語として楽しめるのではないだろうか…。と言いつつ、私は真魔導物語を読んだことがないが笑。
※以下、ストーリーについてのネタバレ等を含みます
【感想】
ダンジョン攻略も面白いのだが特筆すべきはやっぱりストーリーやキャラである。
"魔導"らしからぬ、非常にドラマチックな展開かつ壮大な背景を匂わせるシナリオは好みが分かれるかもしれない。ただアルル、ルルー、シェゾ、サタンといったいつものキャラクター達の立ち回りは過去シリーズやぷよぷよで築かれたイメージを悪い意味では崩さず、かつ新鮮な魅力が感じられる絶妙なバランスだと思う。
特にアルルとルルー、シェゾという『A・R・S』で主役を張った3人が魔導で初めて共闘し、「主人公&立ちはだかる敵」とは違った側面の関係性が丁寧に描かれたことは、後の各キャラクターのイメージにも大きな影響を与えていそう。というわけで、色々な意味で記念碑的な作品と言えるのではないだろうか。
前回プレイしたのが●十年前で細かい所を忘れていたため、「こんなに話面白かったっけ!?」といちいち感動しながら遊べた。アルルの強さや主人公体質にデカい設定で理由付けがなされるのは個人的に好みではないが、それを差し引いても名作と言っていい。
今回一番印象に残ったのは織田アルルのキャラだった。
織田氏の手がけた真魔導やSS魔導におけるアルルの性格というと、自分が見聞きする限りぶっちゃけ悪評の方が多い。私自身後期コンパイル作品で印象付けられた「幼く見えるが元気で純粋な良い子で、実は強大な力を秘めているアルル」はどちらかというと苦手である(ちなみにアルル自体は推しキャラです)。
でもはめきんのアルルは魔導1-2-3で描かれたような、大魔導師になる夢を持つ熱意と実力を備えた16歳の少女であることをプレイ中に何度も感じた。優秀な魔導師の卵とわかるが、いかにも優等生風なふるまいをするわけでもない。ダンジョン内で出会う『ぷよ』等で馴染みの面々に対する態度は漫才デモ以上にクールでキレッキレだし、作中で運命を共に乗り越える相手の居場所を探知する機械(別名:ともだち探知器)をもらった時には勝手に運命の彼氏に出会えることを期待してテンションを上げるなど、年相応っぽい所も見られる。初プレイ時から時間が経ちすぎて忘れていただけで、実は私が好きになったアルル・ナジャってはめきんがベースだったのでは!?とまで思った。
はめきんアルルを知らない人には是非とも布教したい。奇矯なことはしなくても、ルルーやシェゾのような癖のあるキャラたちからも一目置かれる少女としての説得力がすごいので…。決して秘めたる強大な力によってのみ特別視されるキャラではないのだ。
【シェアル的感想】
初プレイ以来アルル×ルルーの印象が強かった(あくまで友情だと思ってはいる)ものの、今プレイするとシェアルもだいぶ濃いしやっぱりシェアルにとって重要な作品だなと感じる。
シェゾは『ぷよ』では既に一定以上の人気を獲得していたはずだけれども、ゲーム上での活躍を見ている限りではA・R・S以降でもアルルを狙ってくる変態っぽい敵キャラ以上のイメージはあまりなかったんじゃないだろうか。それが今作で「戦闘不能状態のアルルとルルーを命がけで逃がす」という熱いムーブをしたことにより、一気に主人公側に属するキャラというイメージが生まれた。これは何気にA・R・S以来の主役格としてのシェゾの復権といって良い出来事だと思う。
また、はめきんにおけるアルルとルルーは魔導3ED以降の旅路~魔導学校での学生生活を共にしている間柄であり、ゲーム開始時点でも既によきライバル兼友達といった関係であることが窺えるのに対し、シェゾはOPでの紹介のされ方からして魔導2ぶりの再会でかつ出会うのもストーリーの後半になってからである。にも関わらず、ラスボス戦時点でのアルルの口ぶりではアルルの中でルルーとシェゾが同じぐらいの存在感を持つようになっているように思える。これをシナリオ上の飛躍と取る人もいるかもしれないが、シェアラー的には魔導2*2で最悪な出会い方をしている二人が、はめきん内での交流を経てアルルからシェゾへの印象がそれだけ大きく変わったのだと解釈したいし、そう解釈できるだけの動きが二人の間にあるのも事実だ。
この辺りが、恋愛的な匂わせはほぼない割にはめきんがシェアルの聖地とまで(一部で)言われるゆえんなのだろうな、と今回改めて感じた。
シェゾがアルルとルルーを助けようとするシーンにスポットが当たりがちだが、個人的には上記のことを踏まえるとアルルが古代迷宮に一人で迷い込みシェゾと再会した際のやり取りが一番の見どころだと思うので、引用しつつ解釈してみる。
(前段のやり取りは少し省略)
シ その「エインシャントリング」は オレのだ!落ちていたのではなく… オ・レ・が・落としたのだ
シ すみやかに 返せ! それから…ことのついでだ
ア げっ! 何か やな予感…
シ お前が…欲しい
ア やっぱり… シェゾの 変態おにーさんぶりは 相変わらずだ
シ だから 誰が 変態だっ! お前の かんちがいぶりも 相変わらずだな このさいだから ハッキリ言っておくぞ!
シ オレはただ お前の 力が… お前の 魔導力が 欲しいだけだ!
ア 本当? 何だか あやしいんだよね… 目つきとかも 変態っぽいし
シ なぁっ! また 変態って 言ったなぁ!
シ 許さぁーん! こうなったら リングもろとも 力づくで うばってやる!―シェゾと戦闘になる―
ここまでは二人とも「相変わらず~」と言っているように、魔導2での出会いから続く、怪しい変態お兄さんシェゾと勘違い娘アルルの関係性のリフレインである。しかしここから先が、魔力を狙う者と狙われる者という立場とは違った二人の会話になる。はめきんの偉大さはこの「個人としてのアルル・ナジャ対シェゾ・ウィグィィ」の関係性の広がりを開拓している所だと思う。
シ く…くそぉ 情けない!どうやら またオレは お前に負けたようだな
ア ねぇ キミに聞きたいんだけど 何でキミは こんなところにいるのさ?
シ それは こちらのセリフだ お前こそ こんなところで 何をやっている?
ア ボク? ボクは…
アルルはそれまでの経緯を語り、シェゾから現在いる場所はおそらくアルルの試験とは全く関係のない古代迷宮であることと、シェゾは秘宝を探しにここへ来ていることを説明される。今回の二人に直接の利害関係はなく、完全に目的を別にしていることがわかる。そして以下の会話。
ア ボクはただ 学校の期末試験をしている迷宮にもどりたいだけ なんだけど…
シ 簡単に抜け出すことは 無理だな もはや このオレ自身も 現在自分が この迷宮の 何階層にいるのかも分からん
ア うーん…… ま いいや! シェゾは 勝手に秘宝を探しててよ ボクは 自分で出口を探してみるよ
ア !?………あっ! そうそう… この腕輪が キミのだって言うのなら返すよ 古代文字が読めて とても便利だったけど…
シ くっ! か 返す必要はない……(お前に負けた…自分への戒めだ…)その腕輪は お前に くれてやるよ
ア ふぅーん…*3 どうもありがとう シェゾ!秘宝…見つかるといいね!
シ フッ…のんきなことを 言っているが オレが秘宝を手に入れれば 世界は このオレのものに なるのだぞ!
ア う~ん… でも… 世界を支配できるほどの スゴイ秘宝を ボクに負けちゃうような人が 簡単に手に入れられるとは 思えないけどね
シ (くっそぉっ! やっぱり こんなヤツに 腕輪なんか やるんじゃなかったぜ…)
ア あっ シェゾが去って行った!
自分でも脱出困難だと説明した古代迷宮の出口を一人で探すことをいとも簡単に決断し、腕輪の力も借りずにそれをやってみると言ってのけたアルルのことを、ここに来てシェゾはただ「奪うべき力を持った者」というだけではなく、同じ偉大な魔導師を志す好敵手として認めざるを得なくなっているのではないだろうか。だからこそひよっこ魔導師への情けでなく、自分のプライドのために腕輪を彼女に譲ったのだと思う。
アルルの側もまた、一連のシェゾとのやり取りを通じて彼にも目標があることや、自分の助けになることをしてくれるような意外な一面を知って随分感じる所があった風な反応を見せている。「ふぅーん…」の所でテキスト送りにウェイトを入れてくれて、本当にありがとうございますと思った。この流れを経てからの共闘だから、燃え(萌え)るんですよ…。
まあ最後には二人とも記憶を消されてしまっているが、ともあれアルルとシェゾって普通にしていたら結構仲良くなれるんじゃない?となるのがやっぱり大きい。
今回のはめきん再プレイで自分のアルル推し、シェアル萌えの芯にあるものを再確認させてもらった。とても意義があった。織田氏を始め、当時制作に関わったコンパイルスタッフの皆さんありがとうございます。